- TOP
- COLUMN
STAGEON式“一流”のマーケティング思考術実践編|バズる動画の作り方「ネガティブ系」

運営企画 チーフ
名和田 翔
YouTube運営事業部 運営企画室 チーフ。フリーランスの動画編集者を経て、2022 年 7 月に STAGEON にジョイン。鋭い洞察力を武器にYouTubeチャンネル立ち上げやコンセプト設計を担当し、登録者数 10 万人を突破するチャンネルを複数生み出している。
ネガティブな印象を切り口にした動画はなぜ伸びるのか
熱量と情報的価値を戦略的に伝える方法を説く
視聴者が思わず見たくなる「ネガティブ系」の動画
「ネガティブ系」の動画とは、視聴者に対して情報のネガティブな要素をあえて強調して見せることで、本来伝えたいメッセージのインパクトを強め、動画が持つ情報的価値を高める手法を指します。ネガティブと言うキーワードだけ見ると否定的な意味であり、あまりいい印象はないかもしれません。しかし、今回お話する「ネガティブ系」とは、悪口や批判を動画にするということではありません。ネガティブな印象を切り口にした動画はファン化にもつながりやすく、効果的な手法であるということについてお伝えしようと思います。
では、なぜ「ネガティブ系」の動画の再生回数は伸びやすいのでしょうか。その理由は3つあります。
1つ目は、人間心理です。人はポジティブなものよりもネガティブなもののほうが興味を引かれる傾向があります。視聴者に対して「これは知らないとまずいかもしれない」という感情の揺らぎをもたらすことで、動画の内容に強い関心を持ってもらうことができます。
2つ目は、すぐに見てもらいやすいことです。「ネガティブ系」の動画は「すぐ見たい」という心理が働きやすく、公開直後の再生回数が伸びやすい特徴があります。動画の公開から60分間でどれだけ再生回数が伸びたかを重視するYouTubeのアルゴリズム上、ネガティブ系の動画はおすすめされやすく、新規の視聴者を獲得しやすくなります。
3つ目は、社会的背景です。昨今は不寛容な社会の中でストレスを抱える人々が多く、彼らはネガティブな情報に敏感な傾向があります。自分以外の誰かを批判したり、痛烈な本音を言ったりするコンテンツに対して、ある種のエンターテインメントとしてとらえているようです。これは必ずしも良い傾向とは言えませんが、社会の流れから見ても、「ネガティブ系」の動画へのニーズは高まっていると考えられます。
「人間心理」、「アルゴリズム」、そして「社会的背景」。これらの3つの理由から、「ネガティブ系」の動画がバズる可能性は高まります。
再生回数が伸びることはわかりつつも、「ネガティブ系」の動画に対して不安を感じるクライアントの方々も少なくありません。ネガティブな要素を扱う動画は、いわゆる「炎上」によって思わぬ反響を呼んでしまうことも少なからずあるからです。しかし、しっかりポイントを押さえた構成や扱うテーマを考えれば、そういった問題は起こりません。
例えば、特定の対象を批判・攻撃するようなメッセージは、反発を生むリスクがあると言えます。単なる批判や攻撃にならないよう、対象へのリスペクトや配慮を忘れずに語ることが大切です。
また、チャンネルのコンセプトや世界観にもよりますが、ネガティブなメッセージの安易な多用は絶対に禁物です。ネガティブな情報を誇張しすぎると、本当に伝えたかった内容がうまく伝わらず、視聴回数のためにやっているパフォーマンスという悪い受け取られ方をしてしまうかもしれません。
これと同じく、チャンネル全体であまりにネガティブな情報が多いと、視聴者は疲れてしまいます。心配事が増えすぎることを理由に、チャンネルから離脱してしまうことも少なくありません。ネガティブなメッセージは、視聴者の心に負担をかけるものだということを忘れないようにしましょう。
いずれにせよ、「ネガティブ系」の動画を出す最終的なゴールは、ファン化を促すことです。ファン化から遠のいていくような場合は、良い企画とは言えません。視聴者に伝えたいメッセージを伝わりやすくするために、ネガティブな表現を切り口としてあえて使うというスタンスを忘れないようにしましょう。
事例① ネガティブなメッセージから視聴者に役立つ情報に着地させる
ここからは「ネガティブ系」の動画を作って成功したチャンネルの事例を紹介します。
はじめに紹介するのは、士業系のチャンネルです。経営者を対象として黒字化や資金繰り、節税といったテーマを主に扱っている同チャンネルでは、話題性のある企業について分析する動画を定期的に投稿しています。この企業分析の動画は、ネガティブな要素を効果的に使うことで再生回数を伸ばすことに成功しました。
分析対象として取り上げているのは、多額の出資金を出資者から集めた後に破産して注目を集めたベンチャー企業や、大々的なリストラを決行した大手企業などです。ネガティブなニュースで注目を集めてしまった企業にフォーカスし、その問題が起こった背景や、企業の対応についての考察を語ります。
この企業分析シリーズが再生回数を伸ばしているのは、企業を批判するだけでなく、起きた事象を客観的に分析し、最終的に視聴者の役に立つ情報として動画を届けているからです。
先ほどの一例で言えば、大々的なリストラへの分析を起点として、「予期せぬリストラに左右されないよう、対策していきましょう」といった視聴者のためになるメッセージに着地させるからこそ、ファン化を促すことができます。ファン化を促すためには、最終的に視聴者の悩みを解決したり、ためになる情報を届けられる構成にすることがポイントです。
事例② 専門家の注意喚起はニーズが高い
次に、不動産投資に関する情報を発信するチャンネルを紹介します。こちらのチャンネルでは、社会情勢やトレンドを見ながら、不動産業界で今後起こり得ることを予測し、注意喚起する動画が高く評価され、再生回数を伸ばしています。
具体的には、「不動産価格が急激に下落する」であるとか、「2025年問題によって日本は大きな打撃を受ける」であるなど、投資家が気にしているであろうテーマを意図的に扱っています。
こうした注意喚起が視聴者に刺さるのは、専門家が情報を発信するチャンネルです。専門家が「今すぐ知って、対策した方が良い」とメッセージを投げかける動画は、先行きの見えない未来について不安を抱える視聴者が多いチャンネルであればあるほど、ニーズが高いです。
ネガティブなメッセージで打ち出しても、動画を最後まで見れば視聴者の不安は払しょくされ、知りたい情報を得ることができ、納得感を得られます。ただネガティブなだけではない、視聴者の悩みを解決する内容に落とし込むことが、やはり大切ですね。
このチャンネルでは、実はチャンネル運営の途中から「ネガティブ系」の動画に取り組み始めました。もともとは不動産投資の裏話などを中心にしていたのですが、チャンネルの成長がやや停滞し始めたので、新たな取り組みとして未来予測と注意喚起の動画を出したのです。この方向転換がきっかけで、また一気に再生回数が伸びるようになったので、ネガティブ系の動画がYouTubeのチャンネルへもたらした効果は大きいと思います。特に伸びた動画は、50万回以上再生されました。
「ネガティブ系」の動画は、サムネイルの訴求力が強いという特徴があります。YouTubeの難しいところは、いくら価値の高い動画を作っても、クリックして動画を再生してもらわなければその価値が伝わらないということです。ネガティブ系の動画はサムネイルにインパクトのある言葉をつかうことが多く、人を惹きつける効果が高いため、再生回数を伸ばすためには非常に効果的です。停滞期に入ったチャンネルでは、ネガティブ系の動画を取り入れることで再び力を取り戻すことができることが多いのではないかと感じます。
事例③ 伝わる熱量の高さがファン化につながる
最後に紹介するのは、事業拡大に成功した実業家が経営ノウハウを発信するチャンネルです。このチャンネルではノウハウ解説のほかに、事業に悩みを抱えて相談に来た起業家にアドバイスをするシリーズがあり、そのシリーズはネガティブなメッセージをあえて強調することで再生回数を伸ばすことに成功しました。
演者が相談者にネガティブな言葉を投げかける姿だけでは、まるで相談者を攻撃しているような印象を視聴者に与えてしまいますが、動画を実際に見れば、演者は熱い気持ちを持って相談者と接して、成功を願うからこそ、強い言葉を投げかけているのだということがわかります。
演者の熱意が視聴者へ伝わることで生じる納得感こそが、「ネガティブ系」の動画をきっかけにYouTubeチャンネルを成功に導くポイントです。はじめに「え?」と疑問を抱くと、人は「実際どうなんだろう」と確かめたくなるものです。そして自分が抱いていた疑問がいい方向性で解消されると、よりポジティブな面が強調されて印象に残ります。ただストレートに熱意を伝えるよりも、あえて一度ネガティブな印象を与えてから熱意を伝えたほうが、ギャップによって熱量がさらに高く感じられるのです。
ネガティブ系の動画に取り組むべきチャンネルとは
「ネガティブ系」の動画は、チャンネルの世界観や視聴者の特徴や温度感、演者の人柄など、さまざまな要素によって効果が左右されます。各要素の相性を見ながら、どのような形でチャンネルにネガティブな要素を取り入れていくべきか戦略を考えます。
まずチャンネルの世界観が合っていないときは、そもそも「ネガティブ系」の動画づくりには取り組まないほうがいいかもしれません。例えば、ポジティブな目標を持ちながら美しくなる方法を発信する美容系のチャンネルの場合、ネガティブな訴求は逆効果になることが想像しやすいと思います。
また、ターゲットとなる視聴者の属性も考慮しましょう。例えば、経営者や投資家といった視聴者をターゲットにする場合、彼らは自分たちにとって利がある、今後のマイナスを大きくしないための情報を求めて動画を見ていることが多いです。こういった視聴者にはネガティブなメッセージが響きやすく、厳しい言葉を投げかける動画を再生してもらいやすい傾向があります。一方、自信を高めるために動画を見ている視聴者が多い美容系や自己啓発系のチャンネルでは、ネガティブなメッセージを取り入れると、視聴者を疲れさせてしまう可能性が高いです。
そして演者の人柄についてですが、熱量をもってメッセージを伝えられる人は、「ネガティブ系」の動画と相性がいいです。逆に、それほど熱量が高くないキャラクターでネガティブな言葉を多用してしまうと、あおるような印象を強めてしまい、視聴者に納得してもらうことが難しくなります。
戦略的に演者の熱量を伝える方法としてネガティブ系に取り組む
「ネガティブ系」の動画に取り組むときに心がけていただきたいのは、あくまで視聴者のファン化が最終的なゴールだということです。演者の皆さんには、視聴者が納得感のある答えに至るまでの道のりで、どんな言葉をつかうべきか考えながら、撮影に臨んでいただけるといいと思います。
STAGEONではリアルな語り口調を活かしたいため、基本的には台本に頼らず動画を作りますが、ネガティブ系の動画では事前の打ち合わせやリハーサルを慎重に行います。例えば「最終的には視聴者に〇〇のような心理になってほしいから、ここは特に熱量をもって伝えてほしい」といった確認を、より丁寧にお伝えしています。
また、サムネイルのイメージを撮影前に考えて、そのサムネイルに合うような動画を作るという順序で制作を進行するケースもあります。これはファン化を実現する、企画意図通りの動画を作りやすいのが理由です。「ネガティブ系」の動画もこのような形で制作しており、ネガティブなメッセージと、その裏側にある熱意が一言でしっかり伝わるよう意識しています。
最後に、年明けということも踏まえ、今後「ネガティブ系」の動画がどのような意味をもたらすかを考えていきます。
2025年も引き続き、YouTubeに新規参入する企業は増え続けると思います。競合が増えていく中で、視聴者に選ばれるチャンネルであり続けるためには、視聴者の心を動かし、説得力のあるメッセージを伝えることが大切になってくると思います。情緒的価値を高めていくことはもちろん、情報的価値を今まで以上に効果的に伝えることも、視聴者に納得してもらえる動画を作るうえでは重要です。ここで効いてくるのが、「ネガティブ系」の動画だと思います。
特にビジネス関連の情報を発信している方々には、ぜひチャレンジしていただきたいです。「ネガティブ系」の動画は、演者の熱量を伝えるうえで非常に効果的なので、心の奥底から湧き出る言葉を伝えるための手段と捉えて取り組んでもらえるといいと思います。炎上のリスクなどを考えて慎重になる方も多いですが、戦略的に取り組めば、必ずチャンネルの成長に寄与するでしょう。