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STAGEON式“一流”のマーケティング思考術 「抽象と具体」

運営企画室 チーフ
名和田 翔
YouTube運営事業部 運営企画室 チーフ。フリーランスの動画編集者を経て、2022 年 7 月に STAGEON にジョイン。鋭い洞察力を武器にYouTubeチャンネル立ち上げやコンセプト設計を担当し、登録者数 10 万人を突破するチャンネルを複数生み出している。
「抽象」と「具体」を行き来することで、より解像度の高い戦略を描ける。仮説思考を立てる際にも、抽象と具体の視点を持つことが重要だ。名和田翔が実践する、マーケティングに活きるふたつの視点を使い分ける思考術とは。
私はマーケティングを「消費者のニーズを満たすための導線設計」と定義づけています。その上で、ニーズを満たすために最低限必要な共通事項を見つけ出すことが「抽象化」、その人や会社、お店にしか表せないものを打ち出していくことを「具体化」と考えています。最適解にたどり着くためには、 抽象と具体のバランスが重要です。
抽象化=市場の共通点を見つける
まず、抽象化から見ていきましょう。市場全体を俯瞰し、成果が出ている(売れている)事象を横断して観察してみると、共通点が見つかります。成果が出ているものの共通点を満たせば、必ず購入につながるはずなので、自分もその共通点を満たすようにします。そして、成果が出ていない事象の共通点も見つけ、それらを避けるようにしてください。
具体化=固有の強みを出す
この抽象化の先に、具体化があります。たとえば、「成果が出ているもの(売れているもの)は、7割が青で満たされている」という共通点が見つかったなら、自分がつくるものも7割を青で満たすことは絶対条件です。その上で、残りの3割を赤にすべきなのか緑にすべきなのかは、売り出す人の強みや、商品がもつ良さによって変わってきます。この「3割の部分を何色にするか」が具体化です。
ゴールはファンになってもらうこと
YouTubeマーケティングにおいても、基本的な考え方は同じです。マネタイズを一旦脇に置くと、YouTubeマーケティングのゴールは「視聴者に興味を持ってもらうこと」と「ファンになってもらうこと」だと考えています。そのゴールに到達するには、視聴者のニーズを理解し、その理解したニーズを適切な形で満たす必要があります。
視聴者のニーズを理解する方法
ニーズを理解するには、同じテーマで伸びているYouTubeチャンネルをいくつかピックアップして見るのがおすすめです。伸びている動画をいくつか見ると、「この要素とこの要素がすごくいいな」と重なる部分が見つかります。その「共通して伸びる要素」を言語化すると、視聴者ニーズにつながります。これが抽象化という考え方です。
伸びている1つの動画だけを見て、「この要素があるから伸びるんだ」と考えて、そのまま具体に落とし込むと、それはただの模倣になってしまいます。あくまでも「複数の伸びている動画の共通点を抜き出すこと」が、視聴者のニーズを理解するコツです。
PDCAを回して視聴者に刺さるものを
視聴者のニーズが理解できたら、今度は興味を持ってもらうためにそのニーズを満たしていきます。これは抽象化したニーズを具体に落とし込むプロセスなので、PDCAを回して、演者の強みや魅力、あるいは実績などの要素のうち、何が視聴者に刺さるのか試していくことになります。
ある場合は演者の「権威性」が、ある場合は「おっとりした性格」が刺さります。もしかすると、情熱的なアプローチをしていったほうがその演者の良さが出るかもしれません。仮説はある程度立てられるものの、そこから具体に落としこむには、PDCAを回しながらブラッシュアップしていかなければなりません。
その繰り返しのなかで「このニーズに対して、こんなアプローチをすればファン化につながるんだ」という手応えをつかんだら、あとはひたすらその精度を磨いていきましょう。

抽象に寄りすぎるとニーズを満たせない
昨今は数多くのチャンネルが展開されているので、「もっと具体的な情報を知りたい」というニーズが強くなっています。たとえば、「お金の話全般」というような大きなくくりの話ではなく、「生前贈与について」といった具体的な話のほうが、視聴者が欲しがる情報を的確に伝えることができます。ニーズを抽象化して仮説を立てるのはいいのですが、視聴者ニーズの具体化を忘れないよう心がけましょう。
具体に寄りすぎると魅力不足に
一方、演者の強みを理解して引き出すことは具体にあたりますが、具体に寄りすぎて市場を見ないと、他のチャンネルと比べたときの魅力を打ち出せなくなります。つまり、視聴者から「このチャンネルだから見たい」と思ってもらえる要素を盛り込めなくなってしまうのです。「強みだと思っていたことがそうではなかった」というケースも往々にしてあるので、常に市場を見ながら強みの仮説を立てていくことが大切です。
中途半端にも要注意
「具体に寄りすぎないように、抽象に寄りすぎないように」とバランスを意識するあまり、それぞれへの意識が中途半端になってしまうケースもあります。演者や視聴者への理解が浅いと具体化すべきところを把握できませんし、抽象化がうまくいかず、市場における共通点を抜き出せていないと、その先の仮説が的外れになってしまいます。2つの視点を行き来しながら、全体の最適解を模索していきましょう。
POINT
- 具体だけでも抽象だけでもダメ。双方を行き来する。
- 演者の魅力を深掘りするには、市場に目を向ける。
- 演者の具体だけでなく、視聴者ニーズの具体を知る。
抽象と具体の視点を磨くトレーニング方法
YouTube マーケティングにおいて、抽象は「視聴者ニーズ」、具体は「競争優位性」とも言い換えられる。これらを理解するためのトレーニング方法を紹介する。
抽象化のトレーニング視聴者のニーズを見極める
視聴者ニーズを理解するには、他チャンネルを分析し、抽象化するトレーニング方法が効果的です。まずテーマを決めて、そのテーマにおいて伸びている動画を5つピックアップして、視聴してみましょう。その際、なるべく異なるチャンネルの動画を見るのが望ましいです。
伸びている動画には必ず共通点があるので、それを自分なりにまとめます。決めたテーマが「節税」であれば、「難しいお金の流れを図解している」、「たとえ話をしている」といった共通点が見つかるでしょう。「お金の話をしたあと、ちょっとふざけて緩急をつけている」という、演者の工夫にも共通点があるかもしれません。
そういった共通点を書き出すと、視聴者ニーズの傾向がつかめます。ここから満たすべき条件が見えてくれば、自分のチャンネルで何をしなくてはならないかがわかるでしょう。
同じテーマで伸びていない動画も、3〜5つほど視聴してみてください。伸びていない動画にも共通点があるはずです。「説明が専門的すぎる」、「お金の話ばかりでいやらしい感じがする」、「編集をしすぎて演者に親近感を持てない」といった共通点が見つかるかもしれません。それらを言語化すると、伸びている動画と伸びていない動画の違いが明確になって、視聴者ニーズをより正確に理解できます。
私自身、このやり方を実践することで、抽象化のコツをつかめました。このテクニックは、演者の立場でふるまいを改善していくときにも実践できるので、ぜひ今後のヒントにしてみてください。
具体化のトレーニング競争優位性を見出す
競争優位性、つまり「競合チャンネルと比べたときに優位に立てる部分はどこなのか」を理解するには、演者を客観的に理解するための深掘りが必要です。
たとえば、パン屋の店主自身に「ご自身のパン屋が選ばれている理由は何だと思いますか」とヒアリングすると、予測を挙げてくれると思います。しかし、すでにパン屋のファンであるお客さんにお店の魅力をヒアリングしてみると、店主とは違う答えが返ってくるはずです。
お客さんの「こういう魅力があるから、パンを買っています」という意見こそが客観的なニーズを満たしている強みです。そしてこの強みは、市場における競争優位性そのものとも言えるでしょう。競争優位性を知るためには、客観的なニーズを把握するのがポイントです。
これはYouTubeでも同じです。演者にヒアリングするだけでなく、購買者や視聴者から「ここが良かったから買った、申し込んだ」という事実ベースの強みを聞けると、チャンネルの競争優位性を理解するのに役立ちます。
競争優位性は自分では気づきにくいものなので、自分自身が演者なら、客観的なコメントをくれそうな友人やファンにヒアリングしてみるとよいでしょう。