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【後編】クライアントを“輝かせる”掛け合いとは?——「脱・税理士スガワラくん」の相棒、ミシロくんに学ぶ、掛け合い論

の写真

「脱・税理士スガワラくん」掛け合い役

ミシロ

YouTubeで登録者数126万人を誇る「脱・税理士スガワラくん」。
そのチャンネルで、演者・菅原さんの“相棒”として絶妙な掛け合いを見せているのがミシロくんです。動画でも顔出しはしておりませんので、今回ミシロくんはシルエットでの出演となりますが、記事中に登場するテクニックは、実はどれも特別なことではありません。
誰でもすぐに取り入れられる、小さくて確かな工夫が詰まっています。

前編では、まず人を知ろうとすること、事前準備や自然体でいることの大切さについて語っていただきました。後編となる今回は、リラックスした心地よい場を作ることの重要性や、「相棒」と呼ばれるようになった関係性の裏側までを掘り下げます。
前編はこちら

撮影の場を「リラックスした心地よい場」に変える

掛け合いをするとき、どんな環境づくりを意識していますか?

ミシロ
僕は以前から「人はリラックス出来る場じゃないと本音を言わない」と思っていて。以前の仕事での経験で、かしこまった場でのコミュニケーションだと、みんな構えてしまって、実際にはどう考えているのかという本音を語ってもらえないですし、どうしても硬くなる。だから、自然体でいられる場を探したり、相手がリラックスできる状況を意識的につくってコミュニケーションを取るように意識してきました。
撮影って、日常とは違う環境で、カメラや照明があるだけで緊張しますよね。だからこそ「ここなら緊張せずにリラックスして話せる」と思ってもらえる場をつくることがすごく大切だと感じています。僕にとって動画撮影における第一歩は、会話そのものじゃなくて、その空気づくりなんです。

具体的には、どんな工夫をしているんですか?

ミシロ
でも正直、「何かを工夫してる」っていう感覚はあんまりないんです。強いて言えば、相手の「気配を感じとる」ことですかね(笑)。今日ちょっと疲れてるなとか、逆にテンションが高いなとか、その日のコンディションを観察して、どう話を切り出すかを考えるようにしています。空気を読むって言うと大げさですけど、相手の小さな変化を見逃さないようにしてます。
前編でもお話しましたが、撮影前にちょっとした雑談を必ず入れること。今日ここに来るまでのこととか、最近気になったこととか。ほんの数分でもいいから「日常の会話」を交わすと、演者の表情や声がぐっと柔らかく自然になるんですよね。それと、相手のSNSは必ずチェックします。好きな飲み物や趣味、ちょっとした投稿でもいい。そこから話題を拾ったり差し入れに活かしたりするんです。演者に「自分を理解しようとしてくれてる」と感じてもらうことで、心の距離も縮まる。差し入れはコミュニケーションツールにもなるし、場の雰囲気も和らげてくれます。
あとは、撮影中に噛んでも気にせず、「もう一回お願いします」って言っちゃいます。

それがすごく自然で、場の空気がピリつかないというか、むしろ和む印象があるんですよね。

ミシロ
「噛んだら終わり」って思ってビクビクしてると、動画コンテンツにも緊張感が出てしまいます。だからこそ、「噛んでも別にいいじゃん」というくらいの心構えでいるとリラックス出来ると思いますし、動画の良い雰囲気にもつながると思います。

失敗を許容する空気といいますか、視聴者側もそういうやりとりがあることで、安心感がある気がします。

ミシロ
そう言ってもらえるのは嬉しいです。「僕も普通の人間ですよ」っていうニュアンスは出しておきたいなと思ってます。
噛んでもいい、言い直してもいい、ちょっと笑っちゃってもいい。それだけで、話す側も、聞いてる側も、楽になりますよね。実はけっこう大事なことだと思ってます。

そうやって撮影の場を和らげていくわけですね。

ミシロ
スタッフと雑談を交わしたり、ほんの少しの工夫で場の空気は変わります。安心できる場であれば、相手の言葉は自然と出てきます。掛け合いって技術っぽく思われがちですけど、実際は「どう空気を整えられるか」に尽きると思います。

声のトーンやスピードは動画のチェックでブラッシュアップしてきた

掛け合いのとき、声のトーンや話すスピードについてはどうですか?

ミシロ
正直に言うと、最初に出演し始めた頃は、特に意識せずに掛け合いをしていましたが、動画のチェックで改めて自分の掛け合いをじっくり見返すと「話すペースが遅くて聞き取りづらいな」とか「声のトーンが重たいな」という改善点が嫌でも目に入るんですよね。

何もやっていないとはいいつつ、振り返りはしっかりしていたんですね。

ミシロ
改善しようと時間を割いたわけではないですが、動画チェックをする中で気になったところは次の撮影で少しずつ直してきました。僕の場合だと、話すテンポが遅くて動画全体のリズムを崩しているように感じたので、少しテンポを上げるようにしました。

声のトーンについても同じですか?

ミシロ
掛け合いをするときは、普段の声からワントーン上げるように意識しています。
自分が思っている以上に、そのままの声だと暗い印象になってしまうことがあるんですよね。少しトーンを上げるだけで、自分のテンションも上がるし、場の雰囲気も自然と明るくなるんですよ。
これはオフィシャルな場で話すときも同じで、声を少し高めに出すようにしています。動画撮影もその延長線上にある感覚です。
他には、テーマによってもトーンを変えています。相続のような重たいテーマなら落ち着いた低めの声で、軽い話題や明るいテーマではトーンを上げて和らげる。常に「視聴者にとって聞きやすいかどうか」を基準にしています。

掛け合い相手に合わせるというより、視聴者を意識しているわけですね。

ミシロ
そうですね。掛け合いは演者と自分のやり取りじゃなく、視聴者もそこにいる。だから“届く声”や“聞きやすいスピード”に整えていくのは自然なことだと思います。動画を振り返る中で良い点も悪い点も見えてきて、それを改善していくうちに、声やスピードが少しずつ整っていったんだと思います。

掛け合いは台本ではなく、関係性と場の空気感

掛け合いの練習はしましたか?

ミシロ
いや、してないですね。正直、掛け合いは練習してもあまり意味がないと思うんです。実際に動画コンテンツで掛け合いをすると、その場の空気や、やり取り次第で使う言葉は変わりますから。台本を使って練習していても、現場の空気次第で話す内容は変わりますよね。しかも台本があると、用意した言葉をなぞろうとして棒読みになってしまうんですよね。営業ならロープレで「言うべきことを揃える」ことは大切だと思いますが、掛け合いだとそうはいかない。その場の雰囲気に合わせることが大事なんです。

まったくの未経験者がいきなり練習なしはハードルが高い気もします。

ミシロ
即興で掛け合いをすることが難しいなら、打ち合わせを増やすとか、自分で企画を持ち込んでクライアントとのコミュニケーションの“場数”を増やして経験を積むのがいいと思います。壁打ちのような練習よりも、実際にクライアントと話す場を増やした方がいい。打ち合わせを重ね、“場数”を踏むこと。経験値を積むことが一番の練習になるんです。
コミュニケーション量を増やすことで、自分の言葉がどう伝わるかを肌で感じられるようになりますから。

「練習」より「場数」なんですね。

ミシロ
そうです。最終的には「相手を軽くいじれる」くらいの関係が理想です。信頼関係ができていれば、冗談も通じるし、ちょっと踏み込んだやり取りもできる。お互いに安心して話せる空気があって初めて、掛け合いは完成すると思います。

相手をいじれるって、信頼が前提なんですね。

ミシロ
冗談が通じるのは、関係が築けている証拠ですから。掛け合いの本質は技術よりも、どれだけ関係を積み重ねられたかだと思います。
ちょっと噛んだり間違えたりしても、それをきっかけに空気が和む。そういう即興的なやり取りは、視聴者にとっても安心感につながるんですよね。

「相棒」と呼ばれるということ

YouTubeのコメント欄でも、「スガワラさんとミシロのコンビが好き」っていう声、けっこう見かけますよね。

ミシロ
はい、ありがたいことに。正直、ちょっと恥ずかしいですよね(笑)。でもそれと同時に、二人のやり取りそのものを楽しんでくれているんだなと感じます。

菅原さんが一人で話すより、掛け合いがある方がやっぱり見やすいですよね。

ミシロ
そう言ってもらえるのは嬉しいです。菅原さんはすごく真面目でストイックな人なんです。その真剣さがあるからこそ、僕が軽くツッコミを入れると空気がやわらぐ。真面目さと軽さ、そのバランスがちょうど良く働いているのかもしれません。

“いい距離感の相手”という印象があります。

ミシロ
お互いに過度に踏み込みすぎず、「相手がどう話したいか」を見ながらやり取りしている気がします。YouTubeって、そういう空気感が画面越しにも伝わると思うんです。

YouTubeの視聴者は、その関係性まで含めて楽しんでいる。

ミシロ
そうだと思います。僕はプロの演者じゃないので、技術的にうまく見せようとするより「空気感」とか「タイミング」を大事にしてます。変に仕切らずに、相手の言葉を受けて自然に返す。その掛け合いが”らしさ”につながるし、結果的に動画全体の見やすさにもなっているんだと思います。

 掛け合いの本質:演者との信頼関係が伝えるもの

これまで掛け合いを続けてきて、一番大切だと感じるものは何でしょうか。

ミシロ
やっぱり信頼関係ですね。掛け合いって技術のように見えるけれど、結局は「この人となら安心してやり取りできる」という信頼があるかどうかで全然違うと思います。信頼があれば、多少言い間違えても笑いに変えられるし、お互い自然体でいられる。そういう空気は視聴者にも必ず伝わるんです。「この二人は関係を築けているな」と感じてもらえたら、動画そのものにもっと耳を傾けてもらえると思います。

同じ役割で動画コンテンツ作り続けていることも、関係していそうです。

ミシロ
僕が聞き役で、菅原さんが解説する。その役割が定まっていることで、視聴者も「どう見ればいいか」が分かる。これは予定調和の強さだと思います。笑点や水戸黄門のように、型があるからこそ、安心して楽しめるんですよね。

予定調和もベースとしているから、内容が入ってきやすいのでしょうか。

ミシロ
そうですね。専門的なテーマでも、視聴者は「この人が難しい単語や内容を質問してくれるから安心」「この人が解説してくれるから信頼できる」と受け止められる。役割の固定化って堅苦しさじゃなくて、視聴者の理解を助ける仕組みなんだと思います。

掛け合いは演者との信頼関係で成立しているわけですね。

ミシロ
信頼があるから自然体で続けられるし、予定調和があるから視聴者に届く。掛け合いの本質は、その積み重ねだと思います。動画に限らず、日常の会話や仕事でも同じですよね。信頼して役割を理解し合えれば、どんな場面でも自然なやり取りができる。掛け合いの本質は、その積み重ねをどう築けるかにあると思います。

掛け合いに特別なテクニックはいりません。
まず、相手が自然体で話せる空気をつくること。
その場を柔らかくし、声やテンポを少しずつ整え、時には失敗すら笑いに変える。
その一つひとつの積み重ねが、相手との信頼を深め、やがて視聴者にも伝わっていきます。

掛け合いの本質は、信頼を積み重ね、その空気を視聴者と共有すること。
それは動画の場に限らず、日常のコミュニケーションにも通じる普遍的な力です。
相手と信頼を築き、役割を理解し合い、自然体のやり取りを重ねること。

その先にあるのが、誰かの心に届く掛け合いなのではないでしょうか。

前編はこちら

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