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医療法人社団都筑会 つづきレディスクリニック / 医療法人社団 吉岡産婦人科医院
Dr.ヨッシーのレディース予防医学
医療と情報発信の“ハイブリッド”が描く未来
- ■ 支援期間:
- 2024.1〜現在
医師

OUTLINE
概要
YouTubeの情報発信は医療に関して困っている人たちの後押しのため
「Dr.ヨッシーのレディース予防医学」インタビュー
吉岡範人|プロフィール
医療法人社団都筑会 つづきレディスクリニック理事長 / 医療法人社団 吉岡産婦人科医院院長
1978年、千葉県市川市生まれ。婦人科腫瘍を専門とする。聖マリアンナ医科大学卒業後、同大学の初期臨床研修センターにて、一般産婦人科をはじめ、救命救急、内科、外科、小児科を学ぶ。2013年カナダ・ブリティッシュコロンビア大学への留学を経験。
東京オリンピック競技大会の水泳競技に救護ドクターとして、パラリンピック競技大会にて水泳競技のドクターボランティアとして参加。創刊100周年を迎える週刊エコノミストにて、2023年を牽引する26人の経営者の1人として選出される。
著書に『女性が体の不調を感じたら、まずは婦人科へGO この本を読めば10年後のあなたが変わる』『フェムテック 女性の健康課題を解決するテクノロジー』。
“視聴者が主治医に聞けなかったこと”を拾いにいく

Q1
――まず、YouTubeを始めたきっかけについて教えていただけますか?
- 吉岡範人氏(以下、吉岡)
- はい。日々、診療をする中で、ずっと「医療だけでは限界がある」と感じていたんです。実際、産婦人科では医療だけだと、なかなか改善できない症状もありますし、他の分野の知識が必要となるケースもあります。専門外のことを取り入れることで、よい結果が生まれるという実体験がありました。
そして、診察にあてられる時間にも限りがあって、すべての悩みに答えられるわけではない。何より患者さん自身が「こんなこと聞いてもいいのかな」と遠慮されてしまう場面も多いんですよ。
Q2
そうした“伝えきれない”もどかしさから、チャンネルを立ち上げるのは勇気がいると思うのですが…。
- 吉岡
- そうです。企画も全部自分で考えて、リサーチも一応はしていましたが、今振り返ると浅かったかもしれません。とにかく手探りで、再生数を意識するあまり、どうしても内容が浅くなりがちな側面もありました。もちろん、それはそれで一定の反応はありましたが、本業である経営者向けのセミナーなど、直接的なビジネスへの繋がりという点では、物足りなさを感じていたのも事実です。
Q3
なるほど。「会えない人に届ける手段」としてのYouTubeですね。その手応えはいかがですか?
- 吉岡
- まさに“会えない人に届ける”ためのYouTubeです。情報を発信するだけでなく、僕が話すことで「病院行ってみようかな」「ちょっと聞いてみようかな」って思ってもらえるなら、それはもう“治療の第一歩”だと思うんですよ。
動画を投稿し始めて1年で、チャンネル登録者が1.7万人以上を超えました。確かな手応えを感じています。でも数字だけではなく、コメントがすごく励みになるんです。「先生の動画で安心しました」「やっと理解できました」とか。ああ、ちゃんと届いてるなって実感しますし、「これは続けなきゃな」って思いますね。
Q4
マーケティングでも「顕在層より、その一歩手前の人に接点をつくる」ことが大事ですね。
- 吉岡
- ええ、僕の中でも“診察に来る前の人”を支えたい気持ちがずっとあります。YouTubeは、そのための“入口”になっている感覚ですね。
Q5
チャンネルを始めた当初、視聴者の反応はいかがでしたか?また、その印象をお聞かせください。
- 吉岡
- いや、思っていたのと全然違いました(笑)。診察に来る患者さんは20代の女性が多いので、「YouTubeでもその世代に刺さる」と最初は思ってたんですよ。でも蓋を開けてみたら、視聴してくれているのは40代〜60代の女性が中心だったんです。
婦人科がんなど、大きな病気をされている方も多い世代です。実際、YouTubeの動画自体はライトに見えても、見ている方の悩みはすごく深いことが多くて。想定外のギャップに驚きはしましたが、「これはちゃんと向き合わないといけないな」と思いました。
Q6
なにか印象に残っているコメントはありますか?
- 吉岡
- 「診察室では聞けないこと」「説明を受けても理解できなかったこと」を、動画で改めて理解したっていうコメントを多くいただいていますが。特に印象的だったのは、「この動画で安心できました」「もっと早く見たかった」とか、「これを見て病院に行く決心がつきました」みたいな声ですね。
中には「セカンドオピニオンとして受診したい」というお問い合わせもあって。関東圏だけではなく、関西や東北からも来院される方がいて、本当にYouTubeの影響力はすごいと感じています。
Q7
なかなか理解できなかったことを、わかりやすく説明するのは至難の業と感じますが…。
- 吉岡
- そうですね。医療って、どうしても言葉そのものが難しくなりがちなんですよ。僕が心がけているのは、『どうしたら“わかる”に届くか』。専門用語や略語を使わないのはもちろん、話の構造をチャート式にしたり、例え話を使ったり。できるだけ、かみ砕いて伝えるようにしています。
チャート式というのは、病態を説明するときに「今の状態は3つに分かれている」「その3つは、●●と▲▲と■■」「●●は…」というように順を追って説明します。そのためには、自分の頭の中にある知識を、きちんと整理整頓しておくことがポイントです。
例え話としては、更年期の話をするとき、“社長と社員”に例えたりします。社長が司令塔(ホルモン)で、それを受けて働く社員が臓器という設定です。優秀だった社員が働かなくなって(臓器の老化)、これまで通り動いてほしい社長が、あれこれと手を焼いている(ホルモンの乱れ⇒更年期症状が出る)」という感じで説明します。

Q8
わかりやすいです(笑)。でも、それには結構な“翻訳力”が必要なのでは?
- 吉岡
- たぶん、もともと説明するのが好きなんです。ただ、説明って自己満足になってしまうことも多いので、常に『聞いている人が、ちゃんと理解できているか』は意識しています。
撮影では、大熊さん(掛け合い役)が基準にしています。彼女がポカンとしてたら、それは「視聴者も理解できていない」ということ。もう一回、説明し直すべきってことです。
Q9
掛け合いによって“視聴者参加型の問診”をしているようですね。
- 吉岡
- まさに(笑)。会話ってやっぱりリズムがあるので、聞いている側も自然と引き込まれると思うんです。僕がひとりでベラベラ話すより、大熊さんが「え、それってどういうこと?」って聞いてくれる方が、視聴者にも届きやすい。
僕のチャンネルは、専門性は高いけれど、できるだけ“空気”はやわらかくしているんです。視聴者が「質問してもいいんだ」って思える雰囲気にしたいというか。
Q10
チャンネル運営には、STAGEONのメンバーが関わっているとのことですが、どのような体制で進めているのですか?
- STAGEON本井
- 僕はプロデューサーで、ディレクターや編集スタッフも含めてチームで動いています。撮影や編集などにも時間がかかりますし、リサーチや企画も大変ですが、企画段階から僕以外のメンバーもしっかり準備してくれています。
チャンネル開始当初は、動画企画は僕と吉岡さんの1対1の掛け合いでスタートしたんです。僕自身が男性なので、女性の持っている悩みが分かりにくいのですし、もっと吉岡さんのコンテンツを分かりやすく伝えるためにはどうしたら良いかということを考え、女性メンバーに意見を聞いたり、ホワイトボードを導入したり、掛け合い役で大熊さんに入ってもらったり。チームをまとめながら、常に改善できるポイントはないかを考えています。
- 吉岡
- 掛け合い役の大熊さんも含め、各自が自分の役割をちゃんと持っていて、それぞれが“自走”してるんですよね。僕はその中で、チームとして勝つために何ができるかを考える立場。まさに“チーム医療”ならぬ“チームYouTube”という感じです。
Q11
チームの雰囲気は映像に出る気がしますが、チーム内の関係性などいかがですか?
- 吉岡
- いま制作の流れとして、撮影当日に用意された台本の中から「じゃあ今日はこれを撮ろう」って決めるスタイルなんですが。実は、「この企画ちょっと甘くない?」なんてシビアなことを言ったりもします(笑)。内容に口を出すのが僕の役割でもありますが、それは信頼関係があるからですし、本当にチームに恵まれています。
チームの雰囲気が動画の空気感となるのは、その通りだと思います。楽しくやれてないと、見ている方も重く感じちゃうので。撮影のとき、「今日は空気が重いな」と思ったら、わざと雑談から始めたり。あと、「この動画の雰囲気、前と同じすぎない?」とか、「最近ちょっと惰性になってるかも」と感じたら、すぐ企画を変えるとか。立ち止まらないようにしています。
す。

Q12
まさに改善サイクルですね。企業でもPDCAの“D(Do)”で止まってしまうパターンも多いですが…。
- 吉岡
- 僕、大谷翔平選手が好きなんですけど、“常に進化している姿”が理想だなと思っていて。YouTubeも同じで、マンネリになったら終わりだと思っています。だから、みんなでどんどん変えていくことが大切なので、同じことはやりません。大熊さんの“くまっちー”も、最初は迷走してましたけど、進化して今はすごく馴染んできていますし(笑)。
Q12
その『くまっちー』も、チャンネルの特長の一つになっていますね。
- 吉岡
- そうですね。彼女の存在はすごく大きいです。僕がマジメに話してるところに、ちょっとしたツッコミや素朴な疑問を入れてくれることで、視聴者との距離が近くなるんです。チャンネルが今のスタイルに落ち着いたのも、やっぱり雰囲気を固めてくれた“くまっちー”という感じで。
専門的な話は堅苦しくなりがちなんですけど、彼女が入ることで、動画全体のトーンが柔らかくなる。まさに潤滑油ですね。
Q13
『くまっちー』は大熊さんのキャラクター名ですよね。誕生のきっかけは何でしたか?
- STAGEON 大熊
- 最初は素で掛け合いに入ってたんですが、動画ごとにテンションがバラバラで(笑)。視聴者にも混乱を与えてたと思うので、「キャラを統一しよう」ってことになったのがきっかけです。
視聴者が難しい内容をより理解できるよう、“ちょっとおバカだけど素直で親しみやすい人”っていう路線に切り替えました。そこから『くまっちー』という名前も決まって、掛け合いが自然になってきたんです。
Q14
確かに、視聴者コメントにも『くまっちー』への共感の声が多いようですね。
- 吉岡
- 「くまっちー可愛い」「吉岡先生とのやり取りが好き」とか、ありがたいですよね。僕自身、“話す側”として常に「聞いてくれる相手がいる」ことを意識してますが、真面目な話をしていると、どうしても緊張感が出てしまうので、大熊さんがうまく“ゆるめて”くれていると思います。そして、それが結果的に視聴者の“安心感”にもつながってるんですよね。
- STAGEON 大熊
- あと掛け合いするうえで、吉岡さんのことをちゃんと理解してないと成立しないんです。そこで動画の最後に、ちょっとした“アフタートーク”を入れて、プライベートな一面とか人柄が見えるような内容にしてます。視聴者が「この人の話をもっと聞きたい」って思ってくれるような空気づくりです。
Q15
専門性に“人間性”を加えて深くファンになってもらう設計ですね。やはり視聴者との関係性は意識されていますか?
- 吉岡
- かなり意識しています。僕自身、医者としてのスキルだけじゃなくて、「この人なら話を聞いてくれそうだな」と思ってもらえることが大事だと考えています。視聴者の中には、主治医には話せない悩みを抱えてる人も多いですから。YouTubeでは 「この人の話を聞きたい」と思える“空気”をつくるのが本当に重要なんですよ。
例えば「商品が魅力的で、その説明は上手いけど、なんか好きになれない会社」ってありますよね(笑)。だから、いわゆる“伝える技術”だけじゃダメなんです。「この人の話なら聞きたい」と思ってもらえる関係性をどうつくるか。そこに僕たちは結構、力を入れてます。
Q16
YouTubeチャンネルの今後について、どのような展望をお持ちですか?
- 吉岡
- チャンネルを続けてきて実感しているのが、「困ってるけど、相談できる場がない」という人が本当に多いことです。特に、がんのような重い疾患に直面している方が「主治医に聞けなかった」「説明されても理解できなかった」というまま、不安だけが大きくなって治療にもふみ出せない現実があるんですよね。
ただ、情報発信って最終的には“行動の後押し”にならないと意味がないと思っていて。動画を見てくれた人が「病院に行くきっかけになった」とか、「診療以外にも選択肢があると気づけた」みたいな動線をちゃんとつくりたいんです。YouTubeを軸に『新しい医療の入口をつくる』という構想です。
Q17
登録者数10万人を目指すとお聞きしました。ほかの目標もありますか?
- 吉岡
- はい。数字自体が目的ではないですが、それぐらい多くの人に届くチャンネルにしたいと思っています。登録者が増えれば、それだけ新しいことにも挑戦しやすくなりますし、今まで届かなかった人にも情報を届けられるようになります。
最近は病院紹介の動画企画も進めていて、「この分野の専門医を探してるけど、どこに行けばいいかわからない」って方に向けて、信頼できる病院を紹介する取り組みをしたいと考えています。
同時に、YouTubeだけでは限界もあると感じていて。今後は「直接相談できる場」もつくりたいと考えています。例えば、対面で話ができる“サロン的な場所”とか、病院と患者さんをつなぐ“中間の相談拠点”みたいなものですね。YouTubeは“メディア”でありながら、信頼関係を築く“接点”でもあると実感しています。その力を最大限に使って、情報発信だけに終わらず、医療のあり方そのものを少しでも柔らかくしていけたらと思っています。
Q18
最後に、読者である中小企業の経営者・マーケティング担当者にメッセージがあればお願いします。
- 吉岡
- 僕も最初は「YouTubeなんて、自分にできるのかな?」って思っていました。でも、始めてみると、ひとつずつ積み重ねていけばちゃんと成果が出るんですよね。
ポイントは「完璧を目指さないこと」と「相手の立場で伝えること」。情報は自分のために出すものじゃなくて、“相手のために翻訳する”という意識がすごく大事だと思います。
YouTubeを活用したいと考えているなら、『ひとりじゃなくてチームで考える』『専門性を相手の課題解決に変える』『難しい話を誰でも理解できる言葉にする』。このあたりを意識するだけで、情報発信ってまったく違って見えてくると思います。
「何から始めたらいいかわからない」という人がいたら、まずは“聞いてくれる誰か”を想定して、一歩踏み出してみてほしいですね。

■YouTubeチャンネル運営成功の鍵は「専門性の翻訳」と「信頼の構築」
産婦人科医・吉岡氏によるYouTubeチャンネルは、専門的な医療知識を「相談しづらい悩み」に翻訳し、視聴者と“信頼”を築いた好例です。
- ターゲットの明確化:数字より“誰に届けるか”主な視聴者は40〜60代女性。数ではなく、「主治医には聞けない不安」を抱える人に響く情報提供に集中。
- 専門性の“翻訳力”:信頼される発信は「わかりやすさ」から。難しい内容を噛み砕き、視覚や会話で理解しやすく伝える工夫を徹底。
- データで磨くPDCA型運営:感覚だけに頼らず、視聴者分析やコメント、再生率を定期的に確認し改善。